近年の琵琶湖をめぐる環境課題 vol.6
琵琶湖と環境行政(3/3)
そしてさらに問題なのは、この報告書の中では、「今後気温が温暖化していくのは必至であり、そうなれば琵琶湖は循環しなくなる可能性が非常に高い」という認識が完全に欠落していることである。この報告書の中では、「琵琶湖では2月までに全循環が起こり深層の酸素が回復するので、姉川起源密度流の琵琶湖深層への酸素回復の寄与は重要でない」と結論付けているが、その全循環が温暖化によって消滅したらどうなるのか?レマン湖と同様、密度流が瀕死の湖を救う回復過程とはならないか?その密度流による回復過程をダム建設という手段で人間の手によって消滅させてしまおうというのは、あまりにおろかな決断である。研究者の立場としては、自然現象の解明は単に知的興味・学術的成果を得るためのものではなく、その成果を行政の施策にも役立ててもらいたいという願いもある。ちなみに近畿地方整備局は、08年6月20日、同局の諮問機関である淀川水系流域委員会がダム建設についてまだ審議中であるにもかかわらず、丹生ダム建設などを含む河川整備計画案を発表した。
ところで、行政のなかにも琵琶湖の環境保全に敏感なところもある。住民の中にも、今の琵琶湖環境を何とかしたいと思う人もいる。研究者は、琵琶湖研究に対する予算が減らされても、何とか琵琶湖の健康状態を監視し続けたいと思っている。これらの人々が一緒になって、今、びわ湖トラストというNPO法人を設立しようという動きが起こっている。筆者が思うに、このような動きが起こるに至った要因はいくつもあり、①2007年度の琵琶湖の低酸素問題、②淡探による魚やエビの大量死の発見、③滋賀県による琵琶湖研究予算の削減、ならびに、はっけん号・淡探の運行停止の危機、④③にまつわる署名運動による地域住民の琵琶湖環境への意識向上と機運の高まり、などが一度に重なったためではないかと思う。びわ湖トラストはこれから始まる団体なので、その活動内容はまだ定かではない。ただ、研究者、行政、住民が「琵琶湖の環境を何とかしたい」という共通の思いで集結していることは確かである。その思いを軸に、今後の琵琶湖をよりよい状況へ導けるような活動を期待したい。
この文章は、2008/8 地理に掲載された原稿を元に、作者長谷川氏の許可を得てアップしています.
古今書院HP
http://www.kokon.co.jp/
「地理」53巻8月号目次
http://www.kokon.co.jp/5308-m.pdf
↓この写真は本文とは関係ありません。(高島市某所にて 10月16日撮影)
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